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ハルキ

ミカ  吉田舞

川合  三村祐輔 

いつお  中野雄介

店員 折角だから、笑楽の娘さんに・・・

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『Another Side of the Story』人物解説

【ハルキ】

・ 7月20日生 かに座 O型 21歳 宮崎県宮崎市出身
・ 神奈川県の私立大学に通う法学部3年生
・ 好きな映画:SFモノ。『ターミネーター』『バックトゥザフューチャー』等。
好きな音楽:洋ロック、ソフトロック。
   タバコ:マールボロライト、夏はメンソールにする。(先生へのオマージュ)
   酒:大好きではないがたまにビールを買って一人でも飲む。彼にとって当たり前ではないそんなひと時が結構気に入っている。飲みに行くと焼酎を飲む。
   服:流行に敏感なわけではないが、売っているものには評価をする。選ぶ基準は動きやすく快適かどうか。冬はいつも同じダウンジャケットをきる。特別な外出がない限り夏はスペースの大きいシャツと短パン。
   本:漫画、挫折する哲学の本、詩集を持っている。あとは人気作家の小説がちらほら。
  ・部屋は家賃60000円で築15−20年のもの。二階の204号室(角部屋)
   ベランダがある。アパート付近は閑静で車はあまり通らない。道幅はそんなに広くない。駅からは徒歩8分くらいで、駅周辺店やスーパーで食品などの買い物をする。コンビニもその近くにある。駅に行く前にちょっとした大通りがある。
・ 宮崎には父と母がいる。兄弟は3つ年上の兄が一人いるが東京に就職して一人で住んでいる。父は54歳会社員、母は52歳、看護婦で婦長をしている。現在父親の
体調が良くなく、入院するかもしれない。
・ 高校生の時にサッカーを見るようになり、河合ちゃん、いつお、純とはたまにフットサルをしている。現在チームを作る計画がある。

  〔家族〕
  ハルキは宮崎市郊外の住宅地の一軒家に両親と兄と祖母の5人で暮らしていた。父は会社員で単身赴任や出張が多かったので家にいることは少なかったし、週に二回母が夜勤の時は高校二年のときに亡くなった祖母と兄の三人で過ごした。しかし父は帰ってくるといつも釣りや遊園地、ドライブにハルキたちを連れて行ってくれるのでハルキは父が帰ってくるのを楽しみにしていたし、父が好きだった。母も子供たちに
寂しい想いをさせまいと温かく接してくれたし、おばあちゃん子だったハルキは祖母も好きだった。家族がそろえばみんなで出かけたし、仲の良い家族であった。

  〔ロックとSF〕
  これらは父の影響であると思われる。父の車の中では、いつもサイモン&ガーファンクルとかビートルズがかかっていた。ちなみにハルキは特にサイモン&ガーファンクルの『America』という曲が好きだったので、当時からアメリカという国は何故か好きだったし今でもそうである。父は映画も特にSFが好きで『スターウォーズ』『ブレードランナー』『猿の惑星』等ビデオもたくさん持っていたのでハルキも幼いころからそれを兄と二人でよく観ていた。兄は3歳年上でそのころまだハルキは小さくてわけもわからなかったが、弟は兄に追随するもの。音楽も映画もそういう環境で育った兄による影響が大きいといえるのかもしれない。
 
  〔法学部〕
ハルキは一浪して今の大学の法学部に入った。現役の時もいくつかの法学部を受けている。ハルキに理由を尋ねても明確に答えられなかっただろうし、答えたとしても誰かの受け売りか、ただもっともらしい理由を言うだけだろう。誰でもそんなものかもしれないが、ハルキもその程度であった。もっとも、現在のハルキは何か目標を持って法学部に通っているのかも知れないが。ではなぜ他の何かではなく法学部なのか。
ハルキがまだ5歳くらいの時、父親と一緒に風呂に入っていたときのこと。父はハルキに「大きくなったら何になりたい、ハルキ。」ときいた。ハルキはそんなことをよく考えたことはなかったので、幼稚園で流行っているように「車屋さん」と答えた。「そうか」と父親は言った。ハルキはその後「僕、お金持ちになりたい。」と加えると、父は「たくさん勉強してお医者さんとか弁護士とかになったらお金持ちになれる」と言った。お医者さんはなんとなく知ってはいたが、弁護士なんて聞いたことがなかったハルキは何か魅惑的に感じて「じゃあ弁護士になる。」と答えた。「そうか。うれしいなあ。」と喜んでくれた父を見てますますハルキはその気になり、それからしばらくの間、親戚や保母さんに同じことをきかれると、「弁護士になりたい」と言って周囲を驚かしていた。それでますます調子に乗っていった。その話を周りからきいてバツの悪い思いをしていたのは両親であった。そんなことがあってハルキの深層心理では法学部に対する特別な想いが根付いていたのかもしれない。それに彼の兄も法学部で学んでいたので、ハルキは学部を選ぶ際そんなに迷わなかった。逆に他の学部にはさらに関心がなかった。

〔友情関係〕
    ハルキは幼いころは兄の友達たちと混ざって遊ぶことが多かったので、同じ年頃の友達は少なかった。近所に同じ年の女の子が2人いたがめったに一緒に遊ぶことはなかった。兄が自分をおいて遊びに行ってしまうときは急に一人ぼっちになってしまい家でおばあちゃんと二人でいることもあったが、知っている兄の友達の家に訪ねていくと、運がよければ中で集まってゲームなどをしていることもあったが、ほとんどの場合が兄と一緒に遊びに行ってしまっていて、その子の母親に「ごめんねー」と言われて帰るのであった。
同年代の友達ができるのは小学校に入ってしばらくするあたりからだ。兄達のように甘えたりできいが、小さいからといっていじめられたりもしない同年代の友達はハルキにとって新鮮だったし、新しい楽しみとなった。
  小学校5年からハルキは地元の少年野球のチームに入った。3年生になれば入れるのだが母親は働いているし父親は家にいないことが多いので、両親は父兄として送迎や会合などチームに協力できないのは申し訳ないと考えたからである。4年生の時に野球をやっている友達の家で「僕も本当は野球をしたいけど、お母さんが忙しいから・・・」というようなことを言ったことを、友達の母親が聞いて、その晩ハルキの母親に「せっかくやりたいって言うんだし、私たちが協力するから野球さしてあげたら。」と言われ、5年生からチームに入ることになったのである。それから野球をしていたが、中学校で入った野球部が不良の巣窟のようなところだったのであまりきちんと練習もできなかったし、2年になると周りの仲間は先輩と同じようになり、ハルキも含め、後輩には先輩が自分たちに接したように接した。だが練習は少しはまともにするようになり、三年の最後の大会までそれなりに目標をもって取り組んだが、一回戦で格上の学校と当たって大敗に終わった。公立の進学校に進学したハルキは練習が厳しいことと、坊主頭にしなければならないことが嫌で野球部には入らなかった。勉強もあまりしなかったし、男友達のグループでワイワイと実のない時間を過ごしたのがハルキの高校生活だった。
  河合ちゃんと知り合ったのは大学に入ってからである。いつおと純もほぼ同時期に大学のクラスで知り合った。四人でよく飲みに行くようになり不定期的に集まっている。ハルキは高校生の頃からサッカーに興味を持ち始めたのだが、四人の話題といえばサッカーの話が多い。純と河合ちゃんは経験者であった。現在フットサルのチームを作ろうと計画中である。河合ちゃんとは比較的家が近いのでつながりが深かった。普通ハルキはあまりはっきり物事を言わないし自分の悩みとかを人に打ち明けたりするタイプではないのだが、ハルキに何かあるときは微妙な表情からでもそれを察知して「おいー、なんかあったのかよ。元気ねーなー」といってくれる河合ちゃんには話せた。すると河合ちゃんはハルキのことを理解した上で、ちゃんと正直な気持ちを言ってくれた。だから河合ちゃんは信頼していたし、いつおや純も河合ちゃんに対しては同じように思っていたに違いない。

【アキ】

 ハルキがアキと初めて会ったのは、大学に入学したてのころの心理学の授業でであった。
アキはその授業で毎週ハルキの斜め前の席に座っていた。大学に入りたてのころなどほとんどがそうであるようにアキは一人でその授業をきいていたし、ハルキも同じくそうであった。アキはハルキと同じ新入生で、フランス語科の学生だった。細身なので背が低いのもそんなには目立たない。肩よりも少し長いストレートの黒髪で広くて張った額が印象的な女の子だ。服装はきっちりと清潔感があり、スカートが多かった。それ自体は珍しいものではないが、流行を感じさせるものでもなかった。アキは両親と2歳年上の姉と4歳年下の弟と暮らしていた。家柄は上流家庭に属する良家で、私立の女子高出身の、当時18歳だった。
 いつも授業内で配られるプリントを後ろのハルキに渡すのがアキだった。アキはハルキにプリントを手渡すときはいつもハルキの目を見て、爽やかな気分になるような表情をした。ハルキがペンなどを床に落とした時もそれに気付くとすぐに拾い上げハルキに渡した。アキはそんな性格の女の子だ。
 アキが校内でいつもの清潔感のある格好で一人で歩いているところや、図書館で一人で調べものをしているアキをハルキはよく見かけたが、挨拶をしたり話しかけたりはしなかった。顔立ちも良く、屈託の無い性格のアキに好感を抱いていたが、その頃はまだ遠い存在で恋愛対象などではなかった。
一年生の夏休みが過ぎ、11月頃だった。心理学の授業中にハルキは鼻血を出した。恥ずかしいわ血はとまらないわで困っていると、アキがそれに気付き「大変っ!大丈夫ですかぁ!?」と言い、カバンからティッシュを取り出してハルキに渡した。大変!なんて言われるとよけいに恥ずかしいので、わざと表情を緩めて少し笑いながら「あーっ、すいません・・・」と言いながらティッシュを受け取ったら、アキも驚いた顔を少し緩めた。血を拭いているハルキを見守りながら「これで足りますか?」と気遣ってくれた。これがアキと交わした最初の会話らしい会話である。
ハルキの中でアキの存在が近くなった気がした。それからはごく軽い会話を交わしたり、構内ですれちがう時に手や顔で挨拶をしたりした。一度電車を待っているアキを見つけたハルキはアキに話しかけ、話題を探そうと住んでいる場所とか出身地とか趣味とかを互いに話した。まずは親しくなって、自分がアキの恋人候補になることが重要である。ハルキは週に一回くらい授業中にアキのことをかわいい子だなぁと思う程度から、週に五日くらいはそんなことを考えるようになっていた。だからある日アキと話していた時に同じ映画に興味を持っていることが判明して、アキに「今から観にいこうよ!」と言われた時は嬉しくてしかたなかった。ハルキは何年ぶりかに爽やかな恋愛をしている気分で満たされていた。ハルキはアキの笑顔が好きだった。いつも笑っていて、そのことはハルキを不安な気持ちにさせなかった。そしてアキは始めの頃から、もう随分前からハルキを知っているかのようにハルキに接した。だから自分もそのように接することができたし、今までこんなに自分が自然体でいられる女の子と出会ったことはなかった。しかしアキと別れて家に一人でいるとウキウキ気分の反面、不安のようなものが押し寄せた。もう数回二人でデートをしたことがあったし手をつないだこともあった。この状態でも十分だったし、あえて「付き合う」という言葉で確認するのは怖くて嫌だった。だけどまだアキの中での自分の位置づけに確信が持てないでいた。12月半ば、イヴにアキが好きだといっていたディズニーランドに行かないかと誘った。アキは「行きたい!」と簡単に答えたが、ハルキにとってはイヴにデートすることは大したことだった。ハルキはディズニーランドで手をつなぎながらアキに「また来たいね。」と言った。アキは「うん。何回も来たいな。」といつもより落ち着いた声で言った。「じゃあ、これからずっと恋人でいてよ」とハルキが言うと。アキはハルキの顔を見て笑い、腕を組んでハルキの肩に頭を寄せた。
ハルキがまじめにこんなことを女の子に言ったのは初めてだった。中学生の頃には男の友達と遊んでいることが多かった。一度勢いで告白したときには断られた。中学生の時はそのくらいであとは特に何もなかった。高校一年の時には文化祭の日によく知りもしない他クラスの女の子に突然好きだから付き合ってほしいといわれ、よく見るとかわいかったし、その女の子の友達数人も周りを囲んでいるという雰囲気に呑まれOKした。初めは楽しかったが、半年も経ってくると本当に彼女が好きなのか分からなくなり、会うことも少なくなってきた。二年の夏休みに入る前の終業式の日、彼女から別れを告げてきた。そのときも遠巻きに友達数人が囲んでいた。結局1年近く付き合ったがすっきりした反面、何か切ないものを感じた。それから地元の仲の良い女友達と付き合ったことがあったが、学校も違うし色々難しくて3ヶ月程度で自然に消滅していた。3年の時は特に恋愛はしなかった。浪人をしていた時も。
さて。その次の年の9月にアキがフランスに行くつもりなのをハルキはもう以前にアキから聞いて知っていた。だからハルキにとってその限られた時間は特別なものだったし、時が経つにつれアキもそのことを気にした。だけどハルキがアキの肩を押した。「行ってきなよ・・・ちゃんと待ってるし・・・手紙もたくさん書くよ。ずっと行きたかったんだろ。たった一年だよ。」本当はハルキも遠くになんて行ってほしくなかったが、そう言ってあげることがアキに対する自分の気持ちの深さを伝えられる方法だと思ったのである。そしてそれがアキのためにもよいのだと思った。
アキに対する気持ちの継続はアキの気持ちが変わらない限り自分の責任だと思ったし、アキを思い続ける自信もあった。それくらい失いたくなかった。

アキとハルキがキスをしたのはディズニーランドへ行ったときだった。だが初めてセックスをしたのは4ヵ月後の5月。アキには門限があって10時から11時までには家に帰らなければならなかったので、ハルキはアキと会うときはいつもその時間までには帰した。それに仲良くなりはじめた頃と会話もテンションもさほど変わっていなかったので、仲はとても良かったがハルキにとってアキとセックスは連想しにくかったし、アキのほうからセックスを求めてくることはなかったので、それまではそういう空気にならなかった。だが5月のある日、二人で遊びに行った帰りハルキの家に帰った時に、ふとしたきっかけで二人はセックスした。その次の日の朝早くアキは帰ったが、友達の家に泊まったと嘘をついた。やはりその時二人はお互いに関係が深まったと感じた。二人が次にセックスをしたのは夏休みに二人で沖縄に行ったときだけだ。9月にアキはフランスへ発った。

【ミカ】
・ 9月21日生 乙女座 25歳 A型 埼玉県春日部市出身

ミカは埼玉県の裕福な家庭に兄を持つ長女として生まれた。父は地元では有名な建築会社の社長である。その会社は祖父の代から続いているが、ここまで大きな会社にしたのはミカの父とそれを陰で支えた母によるものであった。ミカの兄が次の代を継ぐことになっている。裕福ではあったが、ミカの両親はミカを甘やかすことなく、品性のある素直な人間に育てようとした。ミカは両親に対して素直で従順な「いい子」だった。ミカは両親を愛していたし、両親を悲しませることは彼女にとって罪なことだった。
 ミカは小・中・高・大と一貫のミッション系の私立の学校に通っていた。幼い頃からバイオリンを習っていたので、高校からは音楽を専攻して、短大でもバイオリンを専門としていた。卒業してからは、実家に住みながら、ピアノ教室をしたり、管弦楽団のオーケストラの一員として演奏したりという生活をしていた。
 2年が過ぎた頃、母が結婚の話をもちかけてきた。相手は5歳年上の地位もある実業家であった。ミカの印象では誠実そうで優しく、話していても楽しかった。話はうまい具合に進展し、半年後には二人は結婚した。二人は藤沢近辺のマンションに住み、ピアノ教室は彼の意向で続けないことになった。決して妥協などではなく、両親の言いなりになったわけでもない。ミカは彼との結婚生活に希望を抱いていた。
 しばらくは二人の結婚生活は順調だった。セックスにもミカは満足していた。しかし結婚して一年が経とうとしていた頃、そろそろ子供も欲しいし、もうできていてもおかしくない頃なのに、その気配はまったくない。病院で検査したところ、ミカは医者に自分には子供ができない、できたとしても極めて確立が低いのだと聞かされた。ミカは非常に落ち込んだが、思い切ってそれを夫に打ち明けた。すると「そうか。残念だけど、ミカが一人で落ち込むことないよ。それにそんなこと関係ないよ、僕がミカを愛してることには変わりない」と夫は優しく慰めてくれた。それを聞いてミカはとても嬉しかったが、ミカの中でセックスと不妊とが結びついてしまい、セックスにはいつもうしろめたさがつきまとった。それまでのように純粋にセックスで喜びを味わえなくなっていた。時が経つにつれ夫も結果に結びつかないセックスに苛立ちを感じ始めた。二人の性生活は次第に冷却化し、セックスはほとんど無くなった。あっても夫のセックスも機械的で義務的なものだった。そういう夫の感情もミカは感じ取った。さらには夫の帰りが毎日遅くなっていき、帰ってこない日もある。ミカは辛かったがそれが自分もせいであると感じていたので何もいうことができずにいた。両親に心配をかけたくもなく、実家帰ることもなかったし、母とは明るい調子で接していた。母も人当たりのいいミカの夫には好感を持っていたので幸せに暮らしていると信じて疑わなかった。タバコを吸い始めたのもこの頃である。
 ある夏の夜中ミカは一人で泣いていた。いつものように酔って女ものの香水の匂いのついた夫が帰ってくると、落ち着いた感じで「お帰りなさい。」と言った。平然として遅い帰りの自分に文句ひとつ言わないミカに腹が立ったのか、夫は細かいことについてミカに当たった。ミカは下を向いて部屋に行きまた泣いた。しばらくしてリビングで夫がテレビを見ているとき、ミカの部屋の扉が開き、玄関も開いた。夫はミカを呼び止め、玄関へ行ってミカの腕を摑んだが、ミカは「放して!」と小さな鞄一つで衝動的に出て行った。 
ミカはセックスにおいて自分自身がただの一人の女として強く求められるという幸福をもう長い間経験していなかった。だが誰でもいいからセックスをしたいと思って飛び出したわけではない。そこにいるのが辛かったし、自分自身に嘘をつくことが耐えられなくなっていた。夜中の街はミカを悩みから解放してくれたし、ミカを「ミカ」ではなく、一人の25歳の女にした。ミカは嫌なことをすべて忘れた。